San Francisco Ballet Program 8: The little mermaid

サンフランシスコバレエのシーズン最後のプログラムである"The little mermaid(人魚姫)"はアンデルセンの生誕200年を記念してノイマイヤーにより振り付けされ、2005年にデンマークで初演されたバレエ作品である。サンフランシスコバレエでは昨年初演され、昨年とても観たかったのだがアメリカ出張の日程が合わず断念した記憶がある。幸運なことに今年のプログラムでも一週間だけ開催してくれたので今夜観ることが出来た。
人魚姫のテーマは『報われない恋(Unrequited Love)』である。しかしアンデルセンの童話と異なりノイマイヤーの人魚姫はとても重いストーリである。公演の前に「これは大人向けだから子供は見ないでくれ」という通知があった程である。人魚姫は、裸で岸に打ち捨てられるわ、足を動かすときに激痛が走るわ、車椅子に乗せられ、王子と王女のいちゃつきぶり見せつけられるわ、水兵の服を着せられて指をさされて笑われるわ、狭い部屋に閉じ込められるわ、しまいには王子と王女の結婚式を見せられるはで、プライドを傷つけられ、孤独に苦しみ、想いは全く届かず、それでも王子に短剣を突き刺すことは出来なかったため人魚に戻ることが出来ず天に召されるというどうしようもない悲劇だ。
人魚姫役はYuan Yuan Tanであったが、はっきり言って人魚姫の適任はこの人以外にいないだろうというくらいハマリ役だった。以下の動画にダイジェストが乗っているが、彼女の人魚姫の苦悩の表現は本当に素晴らしかった。彼女自身も人魚姫を通して踊りに対する向き合い方が変わったらしい。

後衣装であるが、振付氏のノイマイヤーは日本の能に魅せられたため多分に日本文化の影響を受けてるそうだ。例えば人魚姫の髪型は日本女性の髪型をベースにしているらしい。あと海の魔女が女性ではなく、歌舞伎役者姿の男性になっていたことに驚いた。これはこれで力強くとても素晴らしかったけれども。
しかしストーリは本当に重かった…。人魚姫は人間になって何も良いことは無かった。失恋よりも、馬鹿にされ孤独に打ち震える人魚姫が個人的には一番辛かった。そんな人魚姫を見て、トーマス・マンの小説のトニオ・クレエゲルのストーリを思い出した。周りから変人扱いされ、見下される主人公、密かに想っていた女性は親友と結婚し、二人とも自分から遠いところにいってしまう。そんな運命を静かに受け入れる主人公が描かれているのだが、この可愛そうな人魚姫も同じだな。しかし孤独、中傷から逃げず、やってきた運命を静かに受け入れた人魚姫はとても美しいと思う。我々も同じだろう。嫌なことから逃げてばかりの人間を美しいと思えるか?孤独や困難を恐れず向き合う人こそ価値があると思わないか?

At night, I went to see SF ballet program 8,"The little mermaid" performed by Yuan Yuan Tan. I was moved by her beautiful and emotional dance..